ウィズコロナ時代の採用戦略―上尾中央医科グループ(AMG)の現状と取り組み―

新型コロナウィルスは、医療従事者の採用環境にも影響をあたえました。採用市場の変化とこれからの採用戦略について、上尾中央総合病院をはじめ、多くの医療機関・施設を運営する上尾中央医科グループ(AMG)の久保田総局長にうかがいました。(2020年9月取材)

一般社団法人上尾中央医科グループ協議会 
総局長 久保田 巧
上尾中央総合病院を中心に、152の医療機関・施設・学校・事業所等を運営する上尾中央医科グループ(AMG本部である上尾中央医科グループ協議会を統括。

新型コロナによる、医療従事者採用の変化

採用をひかえる医療機関。医師の応募数は増加傾向

いくつかの団体が来年度以降の新卒・中途の採用方針についてアンケートを取られていましたが、それによると多くの医療機関で例年と変わらないという回答が多いようでした。しかし、コロナにおける経営の影響を受けた第一四半期の収支状況などから、新規採用については様子を見るという医療機関の声を多くの場所で耳にするようになりました。

当グループでは、医師、看護師を含む職員の採用方針については、グループ全体で一律に引き締めるような方針は出していません。そのため各病院個々の判断になりますが、やはり外来診療などに関する採用は当面、様子を見たいという傾向になっています。診療科などは各病院の背景によって異なりますが、この新型コロナ禍においてもやる気のある先生を採用したい、増員したいという要望は当グループにも強くあります。

応募状況の変化としては、複数の非常勤を掛け持ちされていた先生方が、各病院の外来縮小で常勤化を希望する例がありました。また、このような非常事態においては、病院のガバナンスのほころびを感じ、病院の体制や経営に不安を感じた医師、そして新型コロナ対応で業務が忙しくなる中で病院側からの支援がない、感じられないという不満をお持ちになられた医師からのご応募もありました。医師の応募問い合わせは、最近特に増えてきていると感じます。

医師のセルフプロモーションが重要に

そのような中で、これからは医師のセルフプロモーションもキーになってくるのではと感じています。たとえば、整形外科医師の応募で「脊椎のスペシャリストです」というアピールが響いていた病院が、今回の新型コロナを経て、ジェネラルに対応してもらわないと落ち込んだ時のリカバリーができないというリスクヘッジを考えるようになったとも良く聞きます。医師から「脊椎のスペシャリストで、整形外科全般も対応しますよ」というアピールがあれば、募集枠を閉じていても関心をもつ病院はあると思います。後付けで伝えるのではなく、最初から守備範囲の広さを提示しておくことで、募集を控えていた病院の興味に変化を与えることにもなります。

一般内科の応募では、消化器や循環器といったご自身の専門性を伝えながらも、「それ以外の治療にも広く対応しますよ」というアピールが重要です。症例毎の執刀件数などの治療の実績、学会実績なども、こちらが聞かなくても医師側からぜひ情報を頂きたいですね。
病院側としては、総合内科を診療してもらいながら、それぞれの医師の専門性も同時に発揮できるような環境を整えることで、お互いにウィンウィンになると思います。

優秀な医師の獲得チャンスは増えている

病院としては、経営面から新規募集枠を閉じているだけでなく、もしかしたら、今だからこそ優秀な医師を獲得するチャンスかもしれません。当グループでも本当に優秀な先生の案件でしたが、大幅増員したばかりで泣く泣く断った応募が最近でも多くありました。このように応募が増えている中で、優秀な医師を獲得するチャンスも増えているように感じます。医師の増員ができるのもこの時期だからこそだと思いますし、病院としては攻めにでるのも一つかもしれません。

医師のセルフプロモーションでもお話した一般内科では、多くの医療機関で長らく募集を出しているが応募がないというケースがあります。しかしもともと”一般内科“という表現は、専門性をもっている医師としては応募しづらい診療科です。
その場合は、募集の切り口を変え、循環器内科や消化器内科といった専門科で募集し、専門性を環境として担保する約束のもと、一般内科患者もお願いします、というアプローチをとることでチャンスを広げられます。これはこの時期だからこそ結果が出やすいと思います。このように専門科から入られた先生には、病院としては一般内科の強化が目的だとしても、専門性が生かせる症例が集まるように、しっかりサポートしてあげることが長く勤務してくれる秘訣だと思っています。

今はコロナの影響で一時的に外来が落ちていますが、それによって外来を閉じ気味になってしまうとますます患者様が来なくなってしまいます。整形疾患や脳疾患、その他、超高齢化社会においても、引き続き地域ニーズのある診療科については、むしろ今だからこそ医師の増員獲得に積極的に動くとよいと思っています。

採用手法の変化

医療機関でもオンライン面談が浸透

「直接会うのが礼儀」という古い風潮から、オンライン面談があたり前というように変わりました。ウェブ会議ツールのZoomにとまどっていた職員が、今では何の抵抗もなく使っているのは新型コロナのよい影響だと思います。私もZoomにだいぶ慣れ、今では画面越しにも相手の温度感を感じるようになるくらい普通になりました。

医師の面談では、今までの病院訪問というハードルの高い決心から、オンライン説明やオンライン面談だったら気軽に受けるというような医師が多くなっています。これにより、採用におけるアンマッチのリスクを減らせますし、医師とのより多くのコンタクトが実現できるでしょう。病院側からオンラインでの情報交換を提案するなど積極的コミュニケーションの機会を増やしていきたいですね。

医師の採用面談も、ウェブ会議ツールを前提に、画面共有機能を使って自院の売りをまとめた資料やコンテンツを作ることも大切です。当グループとしても、引き続き一般的になっていくオンラインツールを、多方面に、最大限に活用していきたいと考えています。